事件番号:JP2020-0001 裁 定 申立人: (名称)公益財団法人 日本漢字能力検定協会 (住所)京都市東山区祇園町南側551番地 代理人:弁護士・弁理士 山田 威一郎 弁護士 柴田 和彦 登録者: (氏名/名称)kanken-kizuna.jp (住所)大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪タワーB23階 Whois情 報公開代行サービス by バリュードメイン 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル(以下、「本パネル」という。)は、JPドメイ ン名紛争処理方針(以下、「方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規 則(以下、「規則」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則(以下、 「補則」という。)および条理に則り、申立書および提出された証拠に基づいて審理を遂げ た結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「KANKEN-KIZUNA.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「KANKEN-KIZUNA.JP」である(以下、これを「本件ドメイン 名」という。)。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 申立人は、登録者が、申立人の登録商標である「漢検」・「kanken」と紛らわしい 本件ドメイン名を登録し、申立人の高い知名度を利用する意図を有していることを主張す る。申立人によれば、本件ドメイン名は、申立人の商標と混同を引き起こすほどに類似し、 登録者は本件ドメイン名に関係する正当な利益を有しておらず、本件ドメイン名は不正の 目的で登録または使用されている。 従って、申立人は、本件ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および判断 規則第15条(a)は、パネルの裁定について、「パネルは、提出された陳述・文書およ び審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、な らびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」と定めている。 そして、方針第4条a項によれば、申立人は次の3項目の要件のすべてを立証しなけれ ばならない旨定めている。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混 同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること
そこで、以下、本パネルは上記(1)・(2)・(3)の順に判断する。なお、本件におい て登録者は答弁書を提出していないところ、規則第5条(f)は、「もし登録者が答弁書を 提出しないときには,例外的な事情がない限り、パネルは申立書に基づいて裁定を下すも のとする。」と規定されており、本件では「例外的な事情」の存在は窺われないので、本パ ネルは、申立書(及び申立人の提出した証拠)に基づいて、客観的にみて3項目の要件が すべて満たされているか否かを判断し、裁定を行うこととする。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること 申立人は、日本語・漢字に関する普及啓発・支援、調査・研究及び能力育成等を行う公 益財団法人であり、漢字能力を測定する技能検定である日本漢字能力検定を実施しており、 日本漢字検定試験は、一般に「漢検」の略称で知られている。 そして、申立人は、登録第4523806号、登録第5723192号、登録第572 3194号等、「漢検」・「kanken」の文字からなる商標権を複数保有し、防護標章の登録も されており、申立人の上記の活動等に照らし、申立人はこれらの商標に対して権利または 正当な利益を有しているということができる。 他方、登録者の保有する本件ドメイン名は、「KANKEN-KIZUNA.JP」であり、「.JP」は個性 を示すものではないので、その前の部分「KANKEN-KIZUNA」が申立人の商標である「漢検」・ 「kanken」と同一または混同を引き起こすほど類似しているか否かが問題となる。 「KANKEN-KIZUNA」のうち、個性を示すものとは言えない「-」を除き、前半部分の「KANKEN」 が申立人の商標のうち、アルファベットを用いた「kanken」と同一であることは明らかで ある。 申立人は、このことから直ちに、「「KANKEN」の文字部分は、・・・申立人が実施している 日本漢字能力検定の略称として、需要者に広く認識されている商標「漢検」の欧文字表記 である。そのため、本件ドメイン名の構成中、「KANKEN」の文字部分が取引者、需要者に対 し、出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるといえ、本件ドメイン名に接する一 般人は、「KANKEN」の文字を本件ドメイン名の要部として認識するといえる。」と結論づけ ているが、そのように即断することはできない。すなわち、前半の「KANKEN」の部分が「漢 検」以外の語を意味し、その語と後半の「KIZUNA」が意味する語との組み合わせにより、 「漢検」とは異なるユニークな存在が示されていて、社会的に「漢検」が想起されないと いうこともあり得るからである。 そこで、後半の「KIZUNA」について検討する。この語の発音に対応する意味のある日本 語としては、「絆」または「生砂」が考えられるところ、「絆」とは、人と人との深い結び つきを意味し、「生砂」とは、鋳型の製作に用いられる砂であって、石英粒を主成分とする ものを意味する。 そこで、「絆」または「生砂」が登録者にとって特別の関係を示すものであり、それとの 関係で、「KANKEN」が、「漢検」以外の意味のある日本語である「官憲」、「換券」、「管見」、 「乾繭」などのいずれかを意味し、たとえば、「官憲絆」という組み合わせが登録者の個性 を示すものとして、単なる「漢検」・「kanken」とは異なるユニークな存在であるというこ とができるか否かが問題となる。そして、このことが肯定される場合には、「KANKEN」とい う部分のみの同一性をもって、申立人が正当に有する商標と「混同を引き起こすほど類似 している」とは言えないことになる。 しかし、この点について登録者は主張をする機会を放棄している。また、客観的にみて も、「官憲」・「換券」・「管見」・「乾繭」のいずれかと「絆」・「生砂」のいずれかの8通りの 組み合わせが、社会的にユニークなものとして存在することは窺われず、その他、一般の 日本語としては意味を成さない「KANKEN」・「KIZUNA」の音に対応する語により、申立人の 商標とは別の存在があるとは認められない。 以上のことから、「KANKEN-KIZUNA.JP」の「KANKEN」の部分が申立人の商標と同一である 以上、それと組み合わせることで特有の意味を生み出すことはない「-KIZUNA」が付いてい るからといって、「KANKEN-KIZUNA.JP」が「申立人が権利または正当な利益を有する商標そ の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること」という要件を満たさない ということはできない。 したがって、本パネルは、(1)の要件は満たされていると判断する。 (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと この要件の判断に当たり、方針第4条c項によれば、「特に以下の事情がある場合には」 この要件の具備は認められない旨定めている。その事情とは、以下のとおりである。
(i) 登録者が、当該ドメイン名に係わる紛争に関し、第三者または紛争処理機関から通知を受ける前に、 商品またはサービスの提供を正当な目的をもって行うために、当該ドメイン名またはこれに対応す る名称を使用していたとき、または明らかに その使用の準備をしていたとき (ii) 登録者が、商標その他表示の登録等をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称で一般 に認識されていたとき (iii)登録者が、申立人の商標その他表示を利用して消費者の誤認を惹き起こすことにより商業上の利得 を得る意図、または、申立人の商標その他表示の価値を毀損する意図を有することなく、当該ドメ イン名を非商業的目的に使用し、または公正に使用しているとき
本件においては、登録者はこれらの事情その他登録者が本件ドメイン名に関係する権利 または正当な利益を有していると認められるべき事情の存在を主張する機会を放棄してい る。そこで、本パネルとして、申立人の主張およびその提出している証拠に基づきつつ、 客観的に判断するほかない。 申立人は、登録者が、本件ドメイン名の登録時点(2019年7月1日)において、申 立人の事業に関係したこともなく、申立人のために活動したことも、申立人と取引したこ ともなく、また、申立人が、登録者に「kanken」の商標の使用やこれらを含むドメイン名 の登録について許諾等の契約をしたこともない旨主張しており、これはこのとおり認める ことができる。 また、本パネルとして客観的にみて、上記の事情のいずれもその存在を認めることはで きず、その他にも登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有している と認められるべき事情の存在は認められない。 したがって、本パネルは、(2)の要件は満たされていると判断する。 (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること この要件の判断に当たり、方針第4条b項によれば、「特に以下の事情がある場合には」 この要件の具備が認められる旨定めている。その事情とは、以下のとおりである。
(i) 登録者が、申立人または申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確 認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与または移転することを主 たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得しているとき (ii) 申立人が権利を有する商標その他表示をドメイン名として使用できないように妨害するために、登 録者が当該ドメイン名を登録し、当該登録者がそのような妨害行為を複数回行っているとき (iii) 登録者が、競業者の事業を混乱させることを主たる目的として、当該ドメイン名を登録していると き (iv) 登録者が、商業上の利得を得る目的で、そのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーショ ン、またはそれらに登場する商品及びサービスの出所、スポンサーシップ、取引提携関係、推奨関 係などについて誤認混同を生ぜしめることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェ ブサイトまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、当該ドメイン名を使用してい るとき
本件においては、登録者はこれらの事情その他登録者が当該ドメイン名を不正の目的で 登録または使用していることを示す事情が存在しないことを主張する機会を放棄している。 そこで、本パネルとして、申立人の主張およびその提出している証拠に基づきつつ、客観 的に判断するほかない。 申立人は、①2013年6月から2018年6月の間、本件ドメイン名を保有しており、 「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」に関連して使用していたこと、②新URLに変 更後も、その変更告知等のため、2019年5月末日まで、本件ドメイン名を維持、保有 していたが、2019年5月末をもってその保有を中止したところ、2019年7月、登 録者が、本件ドメイン名を登録し、アダルトサイトのURLとして使用されることとなっ たこと、③登録者がアダルトサイトを運営するために申立人の登録商標と類似する本件ド メイン名を利用する合理的理由は全くなく、これをアダルトサイトに使用することは、申 立人の商標を利用して需要者の誤認を引き起こしたり、申立人の商標の価値を毀損したり する意図を有していることが明らかであること等の主張をし、①・②を裏付ける証拠を提 出している。 上記の申立人の主張及び提出されている証拠を検討し、また、実際に本パネルが確認し た本件ドメイン名の使用実態に照らすと、①・②は不正の目的での取得を窺わせ、それだ けでは確定的判断をすることできないとしても、③は不正の目的での使用であると判断す ることができ、上記の方針第4条b項(iv)号に該当することは明らかである。 したがって、本パネルは、(3)の要件は満たされていると判断する。 6 結論 以上に照らして、本パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「KANKEN-KIZUNA.JP」 が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用され ているものと判断する。 よって、方針第4条i項に従って、ドメイン名「KANKEN-KIZUNA.JP」の登録を申立人に 移転すべきものと判断し、主文のとおり裁定する。 2020年6月11日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 道垣内 正人 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2020年3月16日(電子メール)及び3月18日(書面) (2)手数料受領日 2020年3月16日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2020年3月18日 JPRSへ照会 2020年3月18日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRSに登 録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2020年3月24 日に補正(申立書及び電子メール送付データ)が必要と判断してその旨を申立人に通 知し、2020年3月26日に補正書類を受領し、申立書が処理方針と規則に照らし 適合していることを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2020年3月27日(電子メール及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2020年5月25日 (センターは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基 づく緊急事態宣言発出を受け、2020年4月8日から2 020年5月6日まで業務を停止したため、この期間は、 JPドメイン名紛争処理方針のための手続において、営業 日数に含めていない。) (6)手続開始日 2020年3月27日 センターは、2020年3月27日に申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、 JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 センターは、2020年4月7日に申立人及び登録者に電子メール及び郵送で、新 型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言発出を受け、センターが2 020年4月8日から2020年5月6日まで業務を停止し、この期間を営業日数に 含めないことを通知した。 (但し,登録者宛の通知のうち,JPRS登録情報の登録者住所に郵送した通知は「あて 所に尋ねあたりません」として返送された。) (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2020年5月26 日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メー ル及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの指名 2020年6月1日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 言明書の受領日:2020年6月15日(言明書は2020年6月11日付け) パネリスト:弁護士 道垣内 正人 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2020年6月1日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 (但し,登録者宛の通知のうち,JPRS登録情報の登録者住所に送付した通知は「あて 所に尋ねあたりません」として返送された。) 裁定予定日:2020年6月19日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2020年6月1日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2020年6月11日 審理終了、裁定。